今年のベストアルバムを書きたいと思います。今年は新譜をあまり入手していない事が先ほど判明しました。原因は後述します。気力の関係上、3枚に絞って書いていきたいと思います。


Bosnian Rainbows - Bosnian Rainbows


 今年の1月にTHE MARS VOLTAというバンドが解散した。この事については色々と書きたいが、とにかくバンドの片方の頭脳オマー・ロドリゲス・ロペスのシンプル志向という心境変化からTHE MARS VOLTAというブランドを守る為に出来たバンドなのではないかと自分は思っている。結果的にMARS VOLTAの最終作になったNoctourniquetはMARS VOLTAという器で実現可能なシンプルさを形にしていた。以前はあれもこれも取り入れていた姿勢ゆえにその反動も大きく、限りなくシンプルな構成でやりたいという衝動もまた大きかったのだろう。しかし決してミニマルになるというのではなく、かつてのMARS VOLTAが持っていた特にFrances the MuteやAmputechtureの様なダイナミズムをたった4人で、1度の演奏で同等のカタルシスを表現しようとしている(のだと思う)。


 違う人の話になるけど、上原ひろみという大人物がいる。トリオ構成でオーケストラ並みのライブをやろうとしている人だ。彼女曰く、「トリオでやるとき、ピアノも打楽器として機能しなければならない。ベースも時にはギターのように振舞わなければならない。ドラムも歌わなければならない。」そのままではないけれども、だいたいこんな感じ。シンプルな構成でミニマルではなくダイナミズムを形にするにはそれ相応の技量が求められる。一瞬一瞬の神経の使い方がまるで違う。何もかも取り込んで操るというのは統率力を要しながらも、ある意味で驕りなのかもしれない。明確に存在する音だけで勝負する。これは人間性の成長を目指した躍進のためのバンドであると信じたい。



Bosnian Rainbows [Analog]

Bosnian Rainbows [Analog]



A Storm of Light - Nations to Flames


 確か一昨年に前作のレビューを書いたのだが、その時からちょっとずつ片鱗が見え始めていた叫びに明確な意志が込められ始めていた事が本格的に形になった。このバンドに求めているのは圧倒的な凄みなのだが、今作からは純粋なカッコ良さが滲み出ている。自分はあまりメタルとかは好みたくないという人間なのだが、「好みたくない」というのは受動的に爆音や歪みに頼った激しさというのはとても空虚だから、という事なんだけれども、この手のバンドの様な、突き詰めた結果これしかなかったと言わざるを得ない最終手段として選び取ったラウドさは実にウェルカムなのだ。


 初作から前作までは絶望を吐き出したり、傍観者的・黙示録的な内容だったのだが、今作は導く・焚きつけるといった内容になっている。これまではテンポもゆっくりめでドスンドスンしていのだが、疾走感溢れる曲達。何かしらの高次な存在として音を出していたのではなく、生身の人間として音を出していた。4作目にしていよいよ世界と対峙しようという姿勢に打って出た。とても暴力的に響くかもしれない。しかし前向きな姿勢でもって奏でられたこの音は何よりも美しい。命を燃やすエネルギーは連鎖して人々を繋ぐ。火と熱は燃え広がる。


 何でCDとLPを両方持っているのかという話しだが、Bosnian Rainbowsの方は1stアルバムということからか、パッケージにかなり力が入っていたし、そう高いものでもなかったから。A Storm of Lightの方は、最近のLPはMP3ダウンロードコードが付いてるものなんだけど、これには付いてなかったのと、これは外で聴きたいと思ったことに起因する。


 付け加えておくと、A Storm of LightのVo,Gtのジョシュ・グラハムという男はアルバムのアートワークやらデザインもやっていて、NEUROSISというバンドでライブ時の背景映像も担当している。あとPV監督も各所でやっているそう。そして個人の活動ではなにやら剥製?を使ったインスタレーションをやろうとしているような気配。やりたい事、出来る事は何でもやっている人っていうのは今の自分には大きい存在。




Nations to Flames [Analog]

Nations to Flames [Analog]




THE BACK HORN - B-SIDE THE BACK HORN


 第一次BACK HORNブームが自分の中に訪れたのは2005年の事。ヘッドフォンチルドレンの時だった。それから太陽の中の生活、THE BACK HORNと追いかけた。しかし諸々の都合でこのバンドと少し距離を置いていた。動向はチェックしながらも、ライブにも行かなくなった。2010年、バンドは歌詞集を発表、シングル戦う君よをリリース。中身に痺れた。アルバムアサイラムも相当に痺れた。しかしライブには行かなかった。その後リヴスコールというアルバムがリリースされ、それも手に取ったがライブには行かなかった。何となく名残りでこのバンドと繋がっていた感はあった。


 前述したTHE MARS VOLTAの解散。オマーの連続アルバムリリースの停滞。追いかけるものがふとなくなってしまった。今年の2月はあまり聴かなくなったCDやLPをやたらと引っ張り出して聴いていた。その中で手に止まったのがヘッドフォンチルドレン。これまでたまに聴いていたけれど、何故かその時の印象がこれまでと全然違った。個々の曲が初めて一直線で結ばれた。問題提起と結論、その間にある諸々の各所のもがき。自分の中で言語化しにくかった事がこのアルバムには収められていた。新しく答えを探すのではなく、手元にそれがあった事の衝撃。そこから手元にある全てのアルバム、シングル、DVDを漁りに漁った。そのどれもが明確に響いた。悲惨な曲も美しい曲も、過程を知る事で全てを受け入れられた。MARS VOLTAとは違い、心境変化を常にBACK HORNという枠の中で投下してきた。個人個人が奏でたい音・明確なメッセージ。それとBACK HORNというバンドの個性・使命を両立し、両者を一切妥協させずに形にしたアルバム達。


 第二次BACK HORNブームが訪れる。これまで持ってなかったアルバム・シングル・DVDを一気に買い占める。多少気になる程度の新譜はほぼ度外視して。感嘆と後悔が渦巻く。ピンクソーダ、怪しき雲ゆき、何処へ行く、サーカス、走る丘、新世界、茜空、ひとり言、異国の空、未来ねずみ、セレナーデ、水槽、ミスターワールド、アカイヤミ、ゲーム、ディナー、野生の太陽、青空、楽園、思春歌、針の雨、カラビンカ、夜空。初めてヘッドフォンチルドレンを手にした時に一気にBACK HORNにのめり込んでいたら、きっと自分の人生は違うものになっていた。今の自分を否定はしないが。だいたい集め終わる頃に、B面集とシングルが出るという報を受け取った。おいおいマジかよ、と一瞬思ったがこれがもう少し早かったらシングルを全部集めずにB面集だけで中途半端に満足していただろう。B面曲とはいっても、その他大勢という括りに出来ないのがBACK HORNがBACK HORNたる所以なのかも知れない。実際アルバム曲よりも高水準な曲が多い。個性が強すぎてアルバムの流れを乱しかねない。それぐらい濃い曲が揃ってる。パルスの流れに水芭蕉と赤い靴が入ると明らかに浮くだろうし、アサイラムの空気と神の悪戯、パラノイア、真夜中のライオンの空気は明らかに違う。そうした突出した楽曲群を時代ごとに並べたアルバム。今年でBACK HORNは結成15年なんだそうだ。感じられるのは徹底した本気の生。常に本気で物事に当たっていたからこそ生み出された楽曲群。3曲の再録。充分に濃いアルバムにも拘らず、やはりただの羅列には終わらない。10年以上前の曲を現在進行形で鳴らせるというのはなかなか出来るもんじゃない。


 B面曲じゃないけど今年やったインディーズアルバム『何処へ行く』再現ライブ。カラスは正当進化を遂げている。そうあるべきものになっている。

B-SIDE THE BACK HORN

B-SIDE THE BACK HORN



あと書ききれないけど秀曲達を曲単位で。