脳はこの夢のハイライトを記憶から消去しなかった。何度見たいと思ったか、何度、二度と見る事が叶わないと嘆いたか。今まで何度か夢の中で現れ、そしてその発動条件は、決まって思考から消えかけた時。その事について頭を使う事がなくなって数日か数ヶ月後、夢に現れる。夢は深層心理を描き、また掻き立てる。決して絶やすなと、忘れるなと。決して忘れていたわけでも、記憶から消そうとも、逃げようとしていたわけではない。何故、今の自分はこの様な状況に置かれているのか。それは願って其処にいるのか。成るべくして成った事なのか。


 夢の中、階段で階下へと下る際、その少女は微笑んだ。いつか見た、それと違わぬ顔。あの時感じた己の無力感。それはその笑顔に、薄幸から無気力、拒絶と抱擁、退屈と欺瞞を醸し出し、光の漸騰と闇の誘惑、嬉々とした狂気が入り混じっている様に感じたからか。今まさに目の前にあり、とても遠いもの。それが自分に向けられた。それを受けて自分がどう反応したのかは不鮮明で、突然場面が変わり、ダイエーだかイオンだかの規模のショッピングセンターの人ごみの中で、一緒に何処かへ行ってしまったその少女を探してぐるぐる食品売り場を練り歩いている所で目が覚めた。


 1時20分。寝てから1時間も経っていなかった。凄く長い夢だった気がした。


Cygnus...Vismund Cygnus, Cassandra Gemini, Spiral, Open Door - Tuning - Prologue, Lonesome Tears, Revenga, Sad Statue, Soldier Side.


 あの時に感じたものが、今の自分の根底にあるのだと思う。