前日譚 〜5枚のEPを作ろうと思うきっかけ

 2017年初頭、適当にシンセサイザーをいじっていたら1曲出来上がった。それまで何回か試しはしていたものの、作曲作業にまで発展する事はなかった。しかしその時は何故か上手くことが運んだ。凶悪アンビエント・ノイズ・ミュージック。例えるならそんな様相の曲達が次第に出来上がり始め、これは何か一つにまとめたいと思うようになり、ダブルEPという形でリリースしようと思い立つ。ダブルEPとは言わばミニアルバム2枚分を一つにコンパイルしたもの。前後編や姉妹作といったものではなく、3rdアルバムは別の形で何としてでもいつか形にしたいと思っていたことから、アルバム1枚分のボリュームを要した楽曲群をまとめるためにそうした迂回した表現をする必要があった。


 それは「Red strings White strings」と名付けられた。これはボツ案として消えた3rdアルバム第1案「Albino Morning Dream」の冒頭と最終曲、イントロとアウトロの関係にあった2曲のタイトルを流用したものである。Albino Morning Dreamはご存知の通り(?)フォトコラージュ作品で1年以上の多大な労力を要して完成した大作であり、当時グラフィックデザイナーとして生きていこうとする作者は金にならない音楽に時間を割く寛容さなど微塵もなかったのである。かくして3rdアルバム第1案「Albino Morning Dream」は作者の頭の中だけで見事熟成発酵の後に腐り果てることとなる。その残骸は誰の耳にも留まることなく、作者の単なるストックとなっていてこの度、引っ張り出された。と思われていたが、このアイデアは完成しました、さぁ出しますよの段になって予期せぬ事故によって白紙になった後に霧散する。


↓Albino Morning Dream


 全12曲。タイトルではなく造語、フォトコラージュ作品制作の名残と、出来上がりこの世に生まれた曲にはしっかりと「名付ける」という姿勢から楽曲名は意味を有していない。コンセプトや思いはEPやアルバムのパッケージにタイトルを冠するようにした。もっとラフに背景や思想に惑わされずに作品と触れ合って欲しいという考えからそうしている。


01 Fuefut Keykaning
02 Kanakavca Swim
03 Gllegoreim Heggs
04 Benthend Warrham
05 Oqufermum Ingidd
06 Uwintineads Abogado
07 Toxizonova Nanolegon
08 Iiyondo Carnavas
09 Nelgollian Roomedinte
10 Hohzkin Mimoriza
11 Dephynedd Jakka
12 Syagenanieque Haven


↓曲の音像。これはちょっと過激な方ではあるけど、こういったのが12曲入ったものが世に放たれる予定だった。
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デザインまで出来上がっていたRed strings White strings。


 ダブルEPが完成した。よしとりあえずフリーダウンロード出来るようにbandcampにアップしよう。そう思いながら若干なりとも勢いがついてしまっていたのか、ダブルEPの後にシングルが続いてリリースされたら面白いな、なんて余計な考えが浮かび、データのアップロードなんて事務作業をほったらかしもう1曲作っちゃおうと、本当にその時は遊び感覚で着手した。


 それが完全に裏目に出た。後にこの行為が自分の人生を狂わせ、方向転換させる転機であったとは当の本人も知る由もない。映画「レヴェナント」を観ていて、こういった壮大で雄大な曲を作ってみたいなとおもっていたところでもあり、ダブルEPにはない新しいやり方をちょっと試してみようと、どうせ遊びだし上手くいかなければ即効で消去。それでいいと思っていたし、当時はRed strings White stringsの出来栄えには満足していた。



 ノイズがゴヤゴヤして、その後それらが消え失せてストリングスが鳴り響く。そしてそこからちょっとダンスミュージック的なリズミカルな感じに。

あれ?
これをこうしたらいい感じに。
あれ?
これ入れたらもっとよくなるかも。
あれ?
最初のレヴェナントの感じは何処へ?
あれ?
でもこっちの方がいいぞ。断然いいぞ?


出来た。
名前は思い浮かばないな。後でいいや。
これ最高だから真っ先に聴いてほしいな。
EPに入れちゃおう。

あれ?
バランス悪いな。この曲が入るとこの曲がいらなくなるな。前半はこうして、あっそれだと後半が。
ん?
まてまて。これをこうしてこうすれば。
ん?
あれ?


 遊びのつもりで作っていたその曲は、それまで作っていた12曲のクオリティを凌駕していた。軽く追い抜いていた。その新曲を基準にEPを構築しようとすると、軒並み脱落者が続出した。


誰も着いてこれねぇ…。


 ここで一つの選択に迫られる。これまで作っていたダブルEPをリリースするか、後でできた新曲を何とかEPに収める案を進めるか、もしくは新曲の可能性を信じるか。それは即ち、ダブルEPをボツにするという選択。


 ここで考えた。めっちゃ考えた。しかし時間は数分もかからなかったと思う。新曲の可能性を信じる。ダブルEPはボツだ。全く新しいEPを作ろう。収録時間の短いパッションの塊のようなエゲつない奴を作ろう。少数精鋭の爆裂奇天烈ドンチャン騒ぎ。こんなに大掛かりなボツと方向転換はこれまでやってこなかった。良くも悪くもコンセプトを作り込んでから挑む昔のやり方ではあまりがむしゃらにボツを排出するやり方はやってこなかった。これは初めての感覚で、実に清々しかったのを今でも覚えている。


晴れて新しい扉を開ける事となった。こんな曲が何曲もあればきっと楽しい。


さらっと書くつもりが長くなってしまったのでここで一旦切ります。


「Mahoramatic Non-fiction」のコンセプトは次回書いていきます。


では(σ´・ω・)